映画の主人公になれるひとはめったにありませんが、自分の防災の主人公になることならできそうです。自分の防災の主人公になるとは、

自分の運命をしっかり自分の手に握ることです。ところが、これは案外難しいみたいです。

10年前の地震のあと、宮城県のある海辺の地区でした。住民の一部は海岸に近い運河に行って、水位に変化がないのを確認しました。それで安心して、彼らはその後ほぼ1時間、そこでタバコをふかしたり立ち話をしたりしていました。

必死で自転車をこいできたひとがそこを通りかかりました。津波を目撃したのです。かれは「逃げろ」と叫びましたが、みんな本気にしませんでした。「正常化のバイアス」という言葉がありますが、これは専門家の立場からの見え方です。

それは「バイアス」ではなく「日常」だったのかもしれません。必要なのは、日常とは違うという「気づき」でした。「気づき」は能動的な心の営みです。心のモードを切り替えて、自分の運命を自分の手に握る覚悟を固めること、主人公になるにはそれがいるのです。

河北新報:東日本大震災 復興の歩み 宮城・亘理町